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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1565号 判決 1949年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人津田騰三上告趣意第一、二點について。

いやしくも、人を欺罔し、これに原因してその人から、自己に取得する權利のない財物を自己に交付させ之を不正に領得すれば詐欺罪は成立するものであって、財産上の損害を受ける者が被欺罔者であると又第三者であるとは問うところでない。又窃盗罪は、他人の実力的支配の下にある財物を其の意思に反して之を排除し自己の実力的支配内に移せば完成するもので其の財物が第三者の所有に係ることは窃盗罪の成立を妨げるものではない。しかして原判決の確定した事実は、被告人は第一、昭和二二年八月二三日大阪市所在PL教團大阪聯合支部内で堂正道に對し、同教團別府支部長である父清三の使として、買物に出て來た處代金不足するにつき歸宅後直に返濟するから金五千圓貸してくれと嘘を云って同人を欺き借用名義の下に即時同人から現金五千圓の交付を受けて之を騙取し、第二、同年九月一六日前同所で堂正道所有の金額五千圓の小切手一通を窃取したというのであるから、假に、右現金五千圓及右小切手が右堂正道の所有ではなく、所論同人たる教團若くはその教團主管者御木徳近の所有であるとしても、被告人の右行爲が夫々詐欺罪並に窃盗罪を構成すること勿論である。又親族相盗等に關する、刑法第二四四條、及第二五一條の規定は、法律上の直系血族その他所定の親族間において、窃盗、又は、詐欺の罪が行われた場合にのみ適用されるものであるが、被告人と、前記堂正道との間に、法律上の親族關係のあることは、原判決の認定しないところであり且これを認むべき資料は毫も存しない。右教團の教主と教師並見習教師との間に父子兄弟等の如き關係があるとの所論は宗教關係内部者相互の關係を父子兄弟になぞらえた比喩に過ぎないもので、何等法律上の親族關係ではないから、刑法第二四四條第二五一條の適用のないことは論を俟たない。又論旨の主張する教主御木徳近並堂正道が被告人の本件窃盗行爲を容認したとの事実は原判決の認定しないところであって、かゝる主張は結局原判決の事実認定を非難するに歸し適法な上告理由とならない。論旨はすべて理由がない。

以上の次第であるから刑訴施行法第二條、舊刑訴第四四六條に則って主文の通り判決する。

此の裁判は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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